サッカースタジアム宇品建設案の交通解析について調べてみた

サンフレッチェ3度目のリーグ優勝

はじめに

2016年2月16日、広島県議会に対して、新しいサッカースタジアムを「広島みなと公園」に建設すると想定した場合の交通解析結果が報告されました。

NHKの報道によれば、「ハード面の対策などを行えば近くの国道2号線は渋滞しないとした解析結果が出たことを受けて、広島県の湯崎知事は記者会見で「『みなと公園』の優位は強まっている」と述べています。

一方で『「霞庚午線」については一部で渋滞が発生するため、広島高速道路の活用を呼びかけたり退場経路を誘導したりするなど、対策が必要』とも。

報道される情報が極めて少ない中で、私は「素朴な疑問」を感じました。

それは「そもそもどのような解析であったのか?」という疑問です。

そこで、広島県の公式サイトを探してみたところ、調査・解析を外部の事業者に委託していることがわかりました。(いわゆる公募型プロポーザルです)

そして、公募する際の「仕様書」が公表されていました。(あくまで、募集時点の「仕様書」であり、その後、変更や修正があった可能性があります。)

以下、四角の中が広島県の「宇品地区交通対策検討業務 仕様書」からの引用、その下に私が感じた事を書いています。(仕様書の赤字はポイントと思われる点を当方にて着色したものです)

尚、すべては私の素朴な疑問及び私見であり、委託者である広島県、受託者の事業者様に対して誹謗、中傷などを行う意図は一切ございません。

また、まったく的外れな疑問もあるかも知れませんが、現時点で判明している情報を基に私が感じた事であり、的外れな点については何卒ご容赦願いたいと思います。

宇品地区交通対策検討業務 仕様書

1 業務の目的
サッカースタジアムの検討については,7 月 22 日に広島県知事,広島市長,広島商工会議所会頭が会談し,候補地や事業主体等について協議した結果,候補地については,旧広島市民球場跡地より広島みなと公園が優位であるが,広島みなと公園は,宇品地区の交通課題の解決策が必要であることについて合意したところである。
本業務は,宇品地区の混雑時(10 月 25 日(日)に開催予定の帆船フェスタ)における交通状況を把握し,広島みなと公園にサッカースタジアム及び複合施設が建設された場合の交通解析を行い交通課題の抽出を行うとともに,交通課題に対する対策案の検討と対策効果の検証を行うものである。

まず、「候補地についてはみなと公園が優位であるが」という一文です。このような前提条件に基づいて解析が行われたという事を認識しておく必要がありそうです。

 2 委託業務の内容
⑴ 計画準備
本業務を遂行するための計画・準備を行う。
⑵ 宇品地区の混雑時における交通状況の把握・整理
帆船フェスタの来退場車両を複合施設が建設された場合の来退場車両とみなして,サッカースタジアム及び複合施設が建設された場合の対策を検討するため,帆船フェスタ開催日の交通量等を調査し,結果の整理を行う。

そして、委託業務の内容ですが、「宇品地区の混雑時における交通状況の把握・整理」となっています。

具体的には交通状況の把握については、2015年10月25日(日曜日)に開催されたイベント「帆船フェスタ」当日の交通量を調査し、整理するということです。(整理する、というのは様々な検討を加えるという意味と思われます)
これで、解析の基準が「帆船フェスタ」であることがわかりました。

まずは、「帆船フェスタ」は宇品外貿埠頭(1万トンバース)で開催されており、「みなと公園」での開催ではないことに留意しておく必要があります。

また、「帆船フェスタ」当日には臨時駐車場は第1駐車場約400台、第2駐車場約400台(合計800台)が用意され、利用時間は8時半から16時半までとなっていました。

なお、広島港湾管理センターのウェブサイトによれば、広島みなと公園駐車場は350台、宇品波止場公園駐車場は92台となっています。前提条件として「帆船フェスタ」当日に利用可能であった駐車場の数について、「解析結果」で考慮されているのかどうかを確認する必要がありそうです。(特に臨時駐車場合計800台という数字は事前にアナウンスされていますから、来場者が交通手段を選択するに際して大きな判断基準になったと考えられます)

① 調査日
10月25日(日)
② 調査時間帯
8:00~22:00
③ 調査内容
ア 交差点方向別交通量調査
【調査箇所】15箇所(別紙のとおり)
【観測方法】人手観測(10分単位)
【車種区分】小型車,バス,大型貨物(コンテナ牽引車は別途カウント),二輪車
イ 自転車歩行者通行量調査
【調査箇所】7箇所(別紙のとおり)
【観測方法】人手観測(1時間単位)
ウ 信号現示調査
【調査箇所】15箇所(別紙のとおり)
【観測内容】1時間に3回信号現示を観測。
エ 渋滞長調査
【調査箇所】15箇所(別紙のとおり)
【観測方法】人手観測(10分単位で記録)。なお,国道2号沿線7箇所については通過時間も合わせて計測。なお,上記以外の調査内容等により同等以上の交通量等の把握が可能であれば,提案を行うこと。

続いて、具体的な調査日、調査時間帯、調査内容やカウント方法の記載がなされています。調査箇所については、リンク先の地図の通りです。

調査地点(広島県WEBサイトへのリンク)

見る限りでは「帆船フェスタ」当日の公共交通機関(広島電鉄及びバス)利用者数という調査項目が無いようです。「解析結果」に広島電鉄及びバスの利用者数が反映されているのか気になります。

バス停や電停の前で歩行者を観測したのかもしれませんが「帆船フェスタ」会場の最寄り駅は広島電鉄の「海岸通電停」あるいは広島バスの「御幸松バス停」です。

みなと公園の最寄り駅である「広電広島港」からはかなり離れていますので、どこまで参考になるのかという面はあると思います。加えて、「調査日時」と「調査時間帯」についても疑問が残ります。調査は日曜日のみですが、平日の交通量を調査する必要はないのでしょうか。

仮に新しく建設されたスタジアムでサンフレッチェ広島の試合が平日に開催される場合、キックオフは夕方19時半頃になる筈です。平日の夜広島市内から宇品方面に帰宅する車輛とサッカー観戦に向かう車が重なって渋滞が発生する可能性も考慮する必要があるのではないでしょうか。

⑶ サッカースタジアムの来退場車両の動線計画の作成(来場者は3万人とする)
サッカースタジアムの来退場車両について,自動車の交通手段分担率や方面別来退場割合などを推計することにより,来退場車両数を推計し,動線計画を作成する。

サッカースタジアム来退場車輛の同線計画は、来場者3万人という前提の元に作成されたことがわかります。さらに、その3万人のうち交通手段や方面別の来場者を「推計」し、動線計画を作成することとなっています。
NHKの報道によれば、「解析結果」では車輛3,000台という結果となっています。どうやら車輛数3,000台と推計した根拠が大きなポイントになりそうです。NHKによれば「シャトルバスの運行に加えて路面電車の輸送能力を今のおよそ3倍に増強するなど、公共交通機関で1時間に1万7000人を運べるという仮定で試算」との事ですが、その試算の実現性についても知りたいところです。

⑷ 交通解析の実施及び交通課題の抽出
【検証箇所】交差点方向別交通量調査を行った 15 箇所
① (2)で把握した帆船フェスタ開催日の交通量について,交差点解析などの手法により交通解析を行うとともに,交通課題の抽出を行う。
(2)で把握した帆船フェスタ開催日の交通量に,
(3)で作成したサッカースタジアムの来退場車両数を加えた場合
・ (3)で作成したサッカースタジアムの来退場車両数及び別途県より提示する港湾関係車両数を加えた場合の交通量について,交差点解析などの手法により交通解析を行うとともに,交通課題の抽出を行う。

少しわかりにくいですが、要するに3通りの解析及び交通課題を抽出するという事のようです。
まずは「帆船フェスタ」当日の交通量実績、次に「帆船フェスタ交通量実績」に「サッカースタジアムへの推計来場車輛数を加えたケース」、さらに「港湾関係車輛数を加えたケース」の3通りです。

文章を読む限りでは、「帆船フェスタ開催日の交通量」に「サッカースタジアムへの推計来場車輛数」を加えるということで、かなり多く見積もられているような気がします。

⑸ 対策案の検討及び対策効果の検証
① 対策案の検討
サッカースタジアム及び複合施設が建設された場合に宇品地区住民や港湾関係者が交通混雑の影響を受けないよう,⑷②で抽出した交通課題について対策案の検討を行い,検討した対策案について概算事業費,概略図,課題等の整理を行う。
【想定される対策案】
・ソフト対策(信号調整,交通誘導,交通規制など)
・ハード対策(右折レーンの延長などの交差点改良,迂回ルートの整備,ランプ整備など)
② 対策効果の検証
(5)①で検討した対策案について,交差点解析などの手法により交通解析を行い,交通課題の解消状況について効果検証を行う。

次に、対策案の検討および対策効果の検証です。想定される対策案の中に「シャトルバスの増便」や「市電の増発」は入っていません。

「公共交通機関の増便」は渋滞対策として真っ先に検討すべき施策であり、まずは増便の可能性や公共交通機関の利用者数の増加を検討すべきではないかと感じます。

もしかすると公共交通機関に関する対策についてはこの委託事業とは別に検討を行っているのかもしれません。

⑹ 報告書の作成
本業務の内容をとりまとめ,報告書を作成する。
また,交通量等の調査結果,対策案,対策効果等をわかりやすく説明した地元説明用の資料も別途作成する。

報告書を取りまとめ、報告書を作成するほか、「地元説明用の資料も別途作成する」となっています。広島県が対策案及び対策効果の検討にどの程度関与したのか気になるところです。

⑺ 打合せ協議
5回(業務着手時,中間時3回,成果品納入時)

打ち合わせ回数については多いのか少ないのか、判断がつきません。もし、前項の「対策案や対策効果の検討」に広島県が関与したとすれば、中間時3回の打合せ協議でという事でしょうか。

3 委託業務の実施期間
契約締結日から平成28年1月29日まで

契約締結日は不明ですが、平成27年10月15日の交通量調査実施から平成28年1月29日までは約3か月半です。一般常識に照らしてもこれは妥当な期間ではないでしょうか。

4 成果品
作成する成果品は以下のとおり。
○ 報告書(A4版):10部
○ 上記の原稿保存ファイル(CD-R又はDVD-Rに保存したファイル)

「成果物」として求められている報告書はA4版10部です。これまでの仕様にあるような調査、解析、そして対策案の報告を全部含めてA4版10部というのは少ない気がします。

実際の報告書がどの程度のボリュームだったのか気になります。

以下、外部の事業者に業務委託する際に付される一般的な条件のようで、特にコメントはありません。

5 費用負担区分
一切の費用を受託者が負担するものとする。

6 委託事業費等
⑴ 事業の実施状況等により契約額や契約内容を変更・調整することがある。
⑵ 会計帳簿を備え,他の経理と明確に区分して,収入額及び支出額を記載し,委託費の使途を明らかにしておくこと。
⑶ 本業務の実施にあたっては,関係法令等を遵守し,会計処理を適正に行わなければならない。

7 留意事項
⑴ 業務の実施に際しては,県との連絡調整を十分に行い,円滑な業務実施に努めること。
⑵ 業務の実施に伴い知り得た県及び関係者の情報を,第三者に漏らさないこと。
⑶ 県は,業務実施過程において本仕様書記載の内容に変更の必要が生じた場合,受託者に仕様変更の協議を申し出る場合がある。この場合,受託者は委託料の範囲内において仕様の変更に応じること。
⑷ 受託者は,業務実施過程で疑義が生じた場合は,速やかに県に報告,協議を行い,その指示を受けること。
⑸ 委託業務の再委託は原則禁止する。やむをえず委託業務の一部を再委託しようとする場合は,以下の点を明確にして,予め県の承諾を得ること。
① 再委託する業務の範囲
② 再委託する合理性及び必要性
③ 再委託先の業務履行能力
④ 再委託業務の運営管理方法
⑹ 受託者が本仕様書に違反して回復の見込みがないとき,又は業務を完了する見込みがないときは,県は契約を解除して損害賠償させる場合がある。

最後に

サッカースタジアム建設については建設場所はもとより建設そのものの可否を含めて様々な意見がある事は十分承知しています。

現在、「宇品優位」ということですが、宇品周辺住民の方や宇品港港の湾関係者にとって、サッカースタジアム建設後の交通事情は重大な関心事である一方で、テレビや新聞、インターネット上にも「宇品の交通解析」について具体的な情報がほとんど見当たらない状況です。

すべての関係者が納得する結論を出すことは不可能であるとしても、結論に至るまでの過程については可能な限り速やかに公表して頂きたいと考えます。

最後になりますが、広島県民が世界に誇れるようなサッカースタジアムが早期に建設される事を願っています。

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